1.　足をひきずり一週間
編集長　最初に聞きたいのだが、案内役のS君ってだれなんだ？ 薄氷堂　おや、表紙をごらんにならなかったのですか？　イニシャルがSなら、曽良にきまってるでしょう。 編　ばかやろう。それじゃ君が芭蕉か、ずうずうしい。 薄　ハハハ、実はS君は大学の後輩です、とだけいっておきましょう。そもそも曽良は謎の人物ですからね。 編　それにしても9月の17日から25日といえば、まるまる一週間だが、よくそんなに休暇が取れたもんだな。 薄　一週間も休めるような会社に勤めちゃいませんよ。職場を変えたときに、たまっていた有休を強引に取ったのです。なにしろ6年間というもの、有給休暇を1日も消化できなかったのですから。 編　う〜む、ヨーロッパで日本がバカにされている理由のひとつが、休暇の少なさらしいからな。 薄　ええ、国民の圧倒的多数は、クビにでもならないかぎり、長期休暇を取れないわけですから、悲しい話じゃありませんか。ぼくなどは、ギリシア人に鼻で笑われたことがあります。「おまえたち、バカンスもないじゃないか。情けないアパート（これ、いわゆるマンションをさしているらしい）に住んでいるしな。おれなんて、ホラ（と写真をみせて）、別荘もあるし、モーターボートも持ってるぜ」 薄・編　（シラけて煙草をふかす） 編　そろそろ本題に入るが、京都市内は車で移動したのか？ 薄　いえ、一番酷使したのは両脚です。前の職場で痛めた膝が不調で、一歩進むたびにズキッとこたえたんですが、毎日脚を引きずりながら、自分でもびっくりするくらい歩き回りましたね。タクシーに乗るようなお大尽さまじゃありませんから、あとはもっぱら電車とバスを利用しました。
		編　ははあ、これは京福電鉄だね。おれも乗ったことがある。 薄　ええ、この電車にはずいぶんお世話になりました。どこまで乗っても200円ですからね、助かりましたよ。 編　等持院あたりで撮った写真はよくみかけるが、ここは？ 薄　太秦駅です。もちろん等持院や龍安寺の駅でも撮ったんですが、画面右のおじさんの発する緊張感が気に入って、この一枚を選びました。 編　ふん、緊張感はおおげさだがね。君をにらみつけているのかと思ったら、どうもちがうようだな。 　ところで、どうして京福電鉄っていうんだ？
薄　それなんですが、ぼくも最初はわからなかったんです。ところが学生時代に麦穂亭の車で福井県に行ったとき、あちらにも京福があるを知って、合点しました。 編　なるほど、京都と福井で京福というわけか。
		薄　こちらが叡山電鉄ですね。出町柳から乗るんですが、この路線も、昔ぼくが利用していたころは京福の電車が走っていました。 　いつ変わったんでしょうね？ 編　ふ〜ん、ここは、シューガクイン駅か。 薄　残念でした。シュガクインと読んでください。 編　ちぇっ、ほんとかよ。
薄　じゃあ、いよいよ市バスにいきましょうか。利用した交通機関は、京福・叡電・市バスの３つだけですから、1ページ目は簡単にできちゃうんです。
		編　まあ、バスなんて、どこの街のも似たり寄ったりだな。1区間いくらなんだ？ 薄　このサイズだとちょっとみにくいですが、220円と表示があります。 　安いと思いますよ。かなりの長距離でも220円のままですから。 編　釧路のバス賃に比べたら、ずいぶん安いじゃないか。 薄　もっともぼくの学生時代は50円でした。上賀茂神社から京都駅まで乗っても50円ですからね、いくら昔でも、格安でした。 　ついでにいいますと、当時大学生協食堂の素ウドンが一杯25円でした。 編　おいおい、いつの時代の話だい、そりゃ。

1st page	Next